子どもの気持ちは、大人が想像するよりも複雑です。
怒りに見えて、実は寂しさや不安が潜んでいることもあります。
言葉が追いつかず、胸のあたりに“もやもや”だけが残ることも少なくありません。
そんなとき、絵本は気持ちの形をそっと照らす存在です。
物語や絵にふれるうちに、「これに少し似ているかも」と心の輪郭がゆるやかに見えてくることがあります。
図書館では、気持ちの扱いに迷っている様子の子どもや、関わり方を探している大人に出会うことが増えました。
ことばにしづらい気持ちほど、やさしく開く時間が必要になるのかもしれません。
ここでは、そんな“言葉になる前の気持ち”に寄り添う絵本を紹介します。
なぜ「言えない」が起こるの?──児童書専門の司書が考える“心のコップ”の話
子どもがことばに詰まっているとき、大人は「語彙が足りないのかな」と結論づけてしまいそうになります。
けれど、図書館では別の理由が潜んでいそうな場面にしばしば出会います。
好きな本が見つからなかったときや、予定が急に変わったとき——目線が揺れたり、手がそわそわ動いたり。表情の陰りを見守っていると、胸の中で出来事が重なり、気持ちの整理が追いつかないまま止まってしまったのかな、と感じることがあります。
“心のコップ”というイメージを借りると、その戸惑いが少し読み取りやすくなります。
悲しさや驚き、怒りが折り重なると、自分でもどの気持ちがあふれているのかつかめないことがあるようで、ふと動きが止まったり、声が細くなったりすることも。
泣く、固まる、黙る——そんな反応は「言いたくない」のではなく、気持ちがまだ形を持っていない状態なのかもしれません。胸の奥に置き場のない感情が残っていて、言葉に変わるまでに時間が必要なだけ、という姿に近い気がします。
だからこそ、大人が「言ってごらん」と急がせても、うまく出てこないのは自然なこと。
まずは“言わせようとしない”姿勢で、その子の中の動きを静かに受け止めるところから始まります。
絵本は、そんな時間にそっと寄り添います。
言葉になる前の気持ちに光をあて、混ざり合った感情の輪郭をやわらかく映し出してくれる存在です。
読み聞かせのときの“声の出し方”や“集中をつくるコツ”は、
【絵本の読み聞かせのコツ|児童書専門の司書が伝える】 でもくわしく紹介しています。
はじめの一歩が動き出す──言葉への“気づき”をくれる絵本
気持ちを言葉にする前には、「なんとなく」の段階があります。
ここでは、もやもやが“かたち”を持ちはじめたり、小さな変化に気づいたりする瞬間をそっと照らす3冊を紹介します。
言えない気持ちに“手がかり”が生まれる一冊|『なかなかいえない ウウントネ』
『なかなかいえない ウウントネ』(作:いげたゆかり/世界文化社)は、胸の奥にそっとしまっていた“言えない気持ち”を、卵のイメージに重ねて描く物語です。
ウウントネが抱える小さな卵は、まだ名前のない感情そのもの。ページをめくるたびに色や表情が移ろい、“もやもや”の揺れがやわらかく伝わってきます。
日常のワンシーンが丁寧に積み重ねられ、読んでいるうちに「これ、わたしにもある気持ちかもしれない」と自然に重ねやすい構成。
ふっと心に風が通るような読後感が残ります。
「どんな卵に見える?」と話しながら読むと、気持ちに名前を探す時間がそっと生まれます。
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胸の中の“言えない”を卵のイメージで見える形に。最初の一歩をそっと後押しします。
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心の中にある“うれしい”をそっとすくい上げる絵本|『きょうも うれしい』
『きょうも うれしい』(作・絵:えがしらみちこ/理論社)は、日々の中でふっと訪れる“うれしい”の瞬間を丁寧に描いた作品です。
朝の匂い、さっと差し込む光、ふれた手の温度——出来事そのものより「心が動いた理由」に静かに目を向けられる構成になっています。絵の余白や光の広がりがやわらかく、読み手の気持ちの揺れをそっと受け止めてくれる雰囲気です。
強い気持ちほど言葉になりやすい一方で、小さな“うれしい”は流れやすいもの。
この絵本を開くと、日常の中に隠れていた感情のかけらに気づきやすくなり、気持ちを言葉へ結びつける助走が自然と生まれます。
「うれしいって、こんなところにあったんだ」と振り返りたくなる、静かな余韻の一冊です。
小さな出来事に宿る“うれしい”を一つずつ拾い上げる一冊。心の動きにやさしい輪郭が生まれます。
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もやもやが“ことばの方向”へ向かう安心の物語|『きみのことが だいすき』
『きみのことが だいすき』(作:いぬいさえこ/パイ インターナショナル)は、安心のメッセージが静かに流れる絵本です。
「だいすき」という言葉が繰り返されても押しつけに感じず、読み手と子どもの距離がふわりと近づいていくつくり。背景の色合いや登場人物の表情が、やわらかな空気をまとわせ、自然にページへと導いてくれます。
安心感が土台になると、「いま、こう思ってる」と言葉が生まれやすくなります。
この作品は、その“順序”をそっと支えてくれる一冊。
不安やもやもやを抱えた日にも、自分の気持ちを静かに見つめる余裕が戻ってくるような読後感が残ります。
まっすぐな安心のメッセージが土台になります。今の気持ちを言葉にのせやすくなりますね。
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今の気持ちを選ぶだけで伝えやすくなる──“気持ち”を見つける絵本
今の気持ちをうまく言葉にできないとき、“選ぶ”という行為が心をほぐす入り口になるかもしれません。
色や形のような手がかりがそばにあるだけで、子どもは「これかもしれない」とそっと指を伸ばしやすくなります。
ここでは、そんな“気持ちを見つける一歩目”に寄り添う絵本を紹介します。
気持ちを選んで表しやすくなる絵本
子どもが感じている“もやもや”や“うれしい”をうまく言葉にできないとき、まずは「選ぶ」ことから始めてみるのも一つの方法です。
『カラーモンスター きもちは なにいろ?』(作:アナ・レナス/訳:おおともたけし/永岡書店)は、気持ちを色で表すユニークな絵本。黄色はうれしい、青はかなしい……と、モンスターの体の色が感情とともに変わっていきます。
子どもはページをめくりながら、自分の気持ちに近い色を指さして選びます。
言葉がまだうまく出てこない年齢でも、「今日はきいろだね」とやりとりすることで、心の中を少しずつ言葉に変えていく練習になります。
3〜6歳ごろの“ことばの芽”を育てる時期に、家庭でも保育の場でも取り入れやすい一冊です。
色で“いま”を指さしやすい構成。選ぶ動作が、そのままひと言への橋渡しに。
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“今の心”が言葉に近づく絵本|『いろいろ いろんな きもちの ほん』
『いろいろ いろんな きもちの ほん』(文:メアリ・ホフマン/絵:ロス・アスクィス/訳:杉本詠美/少年写真新聞社)は、気持ちを“一覧で見渡せる”珍しいつくりの絵本です。
見開きいっぱいに、子どもが日常で経験するさまざまな感情が描かれています。うれしい、こわい、誇らしい、いらいら……ひとつひとつに表情と場面が添えられ、指さすだけで「今日はこれに近いかも」と気持ちを選びやすくなります。
ページごとのバリエーションが豊かで、似ている感情の違いにも自然と目が向く構成です。言葉にしづらい日でも、ただページを開いて選ぶだけで、親子の対話がそっと始まるのが魅力。
読み手が「こんな気分のときあるね」とつぶやくだけでも、気持ちに小さな輪郭が生まれる一冊です。
多彩な表情と場面が並ぶ図版構成。近いページを選ぶだけで、いまの心に近い言葉へ歩み寄れます。
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言葉のヒントが自然に見つかる絵本|『ふわふわことばで なかよくなる ほん』
『ふわふわことばで なかよくなる ほん』(監修:横山洋子/絵:moco/学研プラス〈おしえて!サンリオキャラクターズ〉)は、気持ちをやさしく伝える“ふわふわ言葉”を、サンリオキャラクターたちと一緒に考えられる構成です。
ページごとに短い場面が示され、「こんなとき、どんな言葉を選ぶ?」という問いかけが添えられています。子どもは場面を辿りながら自分の気持ちに合う言い方を探しやすく、小さな「これが言いたかったかも」という気づきにつながります。
ことばを覚えさせるのではなく、“選ぶ”体験を通じて発話のきっかけが生まれる一冊。日常のやさしい場面から、気持ちの言い方を自然に育ててくれます。
場面提示と問いかけで“ふわふわ言葉”を自分で選ぶ練習に。指さし→短い発話へ、やわらかな導線。
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「怒った気持ち」を受け止めたいときは、
子どもの「怒り」を見つめる絵本 もあわせて読むと、気持ちの整理につながります。
主人公と一緒に“今の気持ちを言ってみたくなる”──気持ちが動き出す物語
物語の中で登場人物の気持ちが少しずつ形を帯びていくと、子ども自身の感情にもやわらかく響きます。
この章では、主人公の心の動きを追いながら“言ってみようかな”という勇気が芽ばえる3冊を紹介します。読後の余韻が、静かな対話の入口になります。
心の奥にある“オキモチ”をのぞく旅へ|『グランド・フィーリング・ホテル』
『グランド・フィーリング・ホテル』(作:リディア・ブランコヴィッチ/訳:tupera tupera/東京書籍)は、さまざまな“オキモチさま”が泊まりにくるホテルを舞台にした物語です。
怒りや寂しさ、うれしさなど、心の奥にある気持ちが宿泊客として訪れ、白い髪のホテルマネージャーが一人ひとりを迎え入れます。年齢を示すというより、どの感情にも染まらない“あいだに立つ人”のようにも見え、気持ちと少し距離をとって眺める視点をそっと示してくれる存在です。
ユーモアをまとった世界観の中で、感情の形や重さを比べるような場面には静かな深みがあります。
ページをめくるたびに「わたしの気持ちにもこんなところがあるかも」と思える構成で、自分の思いに言葉を添えやすくなる余韻が残ります。
さまざまな“オキモチさま”を迎えるホテルの物語。自分の内側をそっと眺め直す視点が育ちます。
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見え方が変わると、ことばも変わる|『ねこのピート ふしぎなマジックサングラス』
『ねこのピート ふしぎなマジックサングラス』(キムバリー&ジェームス・ディーン 作/大友剛 訳/ひさかたチャイルド)は、ピートが“ものの見え方”を変える経験を通して、気持ちの言い換えに気づいていく物語です。
マジックサングラスをかけると、同じ出来事でも違った受け止め方ができる──ピートの表情がゆっくり変わっていく描写は、気持ちと向き合うときのやわらかい変化を思わせます。
読み終えるころには、「こう思ったけれど、こんなふうにも言えるかも」と、言葉の選び直しが自然に生まれそうです。
景色の見え方が少し変わる気づきが、言い換えの練習につながります。前向きさのスイッチに。
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相手の気持ちを想像する優しさが、言葉の入り口になる|『どうぞのいす』
『どうぞのいす』(作:香山美子/絵:柿本幸造/ひさかたチャイルド)は、小さな“どうぞ”が静かに受け渡されていく物語です。
いすをめぐって動物たちが思いやりをつないでいく流れは、状況や相手の気持ちを想像するやわらかな余白に満ちています。説明的ではなく、絵の落ち着いた色合いが物語の静けさをそっと支えています。
自分の気持ちに寄り添うことと同じくらい、だれかの気持ちを想うことの心地よさに触れられる一冊です。
小さな「どうぞ」が巡っていく連鎖。静かな場面の重なりから、相手を想う心持ちが育っていきます。
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気持ちの整理をそっと手伝う──親子で使えるサポート小物
絵本で気持ちを言葉にしたあとは、日常の中でも“伝えやすさ”を育てていくと、子どもが安心して表現できるようになります。ここでは、家庭の一角にそっと置いておけるサポートグッズを選びました。強制ではなく、親子で自然に使えることを大切にしています。
話す・聞くの往復をやわらかく支える|こころかるた〈子ども向け〉
「こころかるた〈子ども向け〉」(クリエーションアカデミー)は、気持ちをことばに近づける小さな手がかりになるカードです。
勝ち負けを決める遊びではなく、“話す・聴く”を軸にした仕組みで、絵に描かれた場面が自然な対話のきっかけになります。今日の出来事を重ねながらめくるだけで、今の気持ちを静かに選べるようになるところが魅力。
読む人が声に出しても、子ども自身がカードを手に取っても使いやすい構造で、年齢に応じて関わり方を変えられます。
感情の種類を覚えるというより、「いまの気持ちを映してみよう」というゆるやかな姿勢で寄り添えるアイテムです。
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気持ちをその日のまま残せる小さなノート|せなけいこ 日記帳(1年)
「せなけいこ 日記帳(学研ステイフル)」は、1年分を見開きにやさしく収めたダイアリーです。
日付がフリーなので、書けない日があっても気負わずに続けられます。紙面には、絵本作家・せなけいこさんらしい素朴で温かなタッチが散りばめられ、ことばに迷う子どもにも落ち着いた時間を届けてくれます。
文字が書けない時期は、丸や線、色だけでも気持ちを残せます。声にしづらい思いを“そっと置いておく場所”として使えるノートです。
暮らしの中で、今日の気持ちを静かに振り返る小さな習慣に。
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まとめ|今日の気持ちに小さな言葉をのせていく
気持ちは、はっきり言える日もあれば、形になる前にすっと過ぎてしまう日もあります。
それでも絵本を読む中で「これに少し似ているかも」と感じる瞬間があれば、そこに小さな言葉がそっと芽生えます。急がなくても大丈夫です。気持ちの見つけ方には、その子だけの歩幅があります。
図書館で子どもたちと本を選んでいると、うまく言えない思いを抱えつつも、好きなページに指を置いたり、表情で知らせてくれたりする姿に出会うことがあります。
無理に言葉を探さなくても、「ここが気になったんだね」と受け止めてもらえるだけで、子どもの心がほんの少し軽くなっているように感じます。
家庭でも、完璧な言い方にこだわる必要はありません。
ページをゆっくりめくる静かな時間が、今日の気持ちによりそってくれるやわらかな支えになります。
